キューバの踊りとシャーマニズム


 フェリス・アーニョ・ヌエボ(新年明けましておめでとう)!
今年の年越しはここ常夏と音楽の楽園キューバで踊り明かして過ごしました。クリスマスはツリーも無くて蒸し暑い夜でした。やっぱり寒い国のほうが雰囲気はあっていいですね。
キューバ音楽といえば少し年配の方にはマンボやチャチャチャ、ダンソン。若い人にはサルサと言えば判るでしょうか。
 かつて15世紀〜18世紀にかけてスペイン諸国によりカリブ海の島々でサトウキビのプランテーション農業が行われ、その労働力のためにアフリカ西海岸から多くの奴隷が連れて来られました。彼らの独特のアフリカの音楽センスとラテンの音楽とが融合してできた音楽が数々のキューバ音楽なのです。同じく、ここの主食にコングリスという料理があります。白米に赤黒いインゲン豆を加えて炊いた黒っぽい赤飯です。彼らはこれをクリスト・イ・ネグロとも呼びますつまり、白人クリスチャンと黒人とが混ざり合ってできた料理。まさに黒人も白人もその混血ムラニートも差別無く暮らしている国キューバらしい文化なのです。宗教も西アフリカ伝統のシャーマニズムがキリスト教と結びついてできた独特のものが多くの人の間で信仰されています。音楽や芸術にしろ、宗教にしろ、好きなように表現できる自由な雰囲気がここキューバにはあります。共産主義国で、カネやモノは無いけど、人生を楽しむ時間や暮らしに困らない福祉があります。何より人々が陽気で幸せに暮らしているというのが一番。他国がどうのこうの言う必要な無いのです。
 

写真左、アフロアフリカン文化が凝縮した地区、祈りの場所や薬草屋がある。毎週日曜にはルンバのコンサートとダンスが見れる。
写真中央、コングリス、豚の炒め物、マサ・デ・プエルコ。牛肉は生産量が少ないのか、豚をよく食べる。ビールはブッカネロアルコール度が高くクリスタルよりコクがあって美味い。
写真右、音楽にあわせ道端で踊っているおじいさんコンビ、上手。


サンティアゴのシャーマンを訪ねる


 年末、不思議な場所にいた。街の中心の一軒屋の庭にあるのに、その小屋は藁葺きでできており、中には十字架や様々な神々の像、呪いや儀式の品々があった。足元には山羊の皮が敷いてあり、壁にはその睾丸がかざってあった。シャーマンにより祈りの唄が始まった。聖水が頭にかけられ、葉巻の煙がかけられる。ココナッツを体に当てながら数回体を回し続けられた。祈りの唄が佳境にせまったときココナッツが地面に叩きつけられ粉々になった。そこで儀式が終わった。ココナッツの破片を探す。殆どの白い果肉が上を向いていた。新しい年は大吉らしい。
年越しはキューバの首都から15時間、第二の都市サンティアゴという街に滞在していた。知人の紹介で、あるシャーマンの家を訪ねた。旅の祈願と新年の祈りをしておきたかったので丁度よかった。現地でも有名な人で、日本の"あいのり"とかいうTV番組で日本人が訪ねてきたのがきっかけで大の日本人好きになり、私が訪ねた際も大歓迎された。
彼女はシャーマン(サンテリア)の中でも特にエスピリッチャリスタ(精霊師)で、太陽神を崇めていた。初日目は近未来の占いと何が必要なのかを見てもらった。最後に儀式の為にいくつかの物を買って持ってこいという指示を受けた。それはココナッツとローソク、オルーア神の粉、乾燥させた卵の殻、アブレ・カミノ(道開)の葉、聖なる香水などである。まるでドラ○エのゲームのアイテムのような???なものばかりであった。ただでさえ物不足のキューバでどやって探せばいいのかと不安になる。聞いてみると呪術品売り場というのが数件あるらしい。半信半疑で人に尋ねながら行くと、ある小さな掘っ立て小屋を発見、聞いた事もない薬草や儀式用の香木が売られていた。そこで足りなかった品はもう一軒の店(といっても薬草が植えられている一見ただの民家)で購入。合計100円程度也。売っている人も占い師で、いつでも占いをしてくれるそうだ。そして不思議な品々を購入して次の日に儀式をやってもらいに行ったのである。
ご存知のとおり、カリブの島々の先住民族はコロンブスやコルテスを始めとするスペインの侵略で絶滅させられ、後により強固で、サトウキビプランテーションでの労働力として打って付けであった西アフリカ人を奴隷として連れてきた。キリスト教に改宗させられつつも、元来のアフリカの宗教と混ぜて作られたのがジョールバ宗教、その儀式を行うのがサンテリアだ。キューバにはルンバを始めとするアフリカを起源とする音楽が幾つかあり、実際に祈りの儀式にも使われる。神々に扮した踊り子が踊るというものだ。まさに彼らがパーカッションで激しいリズムを刻み踊っているときには神が君臨しそうな勢いだった。
 宗教にしても芸術にしても自由に表現できるムードがここキューバにはある。道端で音楽が鳴れば女性達が真っ先に踊りだし、男性が続く。ここに来た人は皆、こんな自由で陽気で平和な社会主義国があったのかと気づかされる。ソ連の崩壊、アメリカの経済封鎖もあり、モノや金は無い、しかし彼らには幸せがある。
最後に占いで2002年の世界はどう出ているかを聞いた。彼女もずっと祈りを続けてきたが、困難な年になるのは確実だろうと言われた。その言葉が気にかかる。


キューバの葉巻、料理ではないのですが嗜好品として紹介します。特にキューバの葉巻は最高級品として世界で人気が高い。

キューバ料理記事、栄養と料理2002年9月号に掲載されたものです。